調べたものおきば

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桐生火葬場事件 2

前の記事のつづき

 

犯行動機

捜査の結果、MとYが死体を半焼で遺棄した動機は以下の3つとされた。

 

①燃料・火葬代金の騙取

 Yについては、燃料の薪代は自己負担だが、市からの手当の他火葬の回数に応じて条例で定めた火葬料金が支給されていた。

 Mは火葬の手間賃として1体につき60銭(12歳以下の場合は30銭)を支給されていた。

死体を火葬にしなかった場合、Yは燃料代を抑え火葬代を得ることができ、Mは火葬の労働をせずに賃金やチップをもらえることとなる。

②貴金属類の抜き取り

 死体から貴金属や金歯を抜き取り、古物商に売却していた。

③脳みその抜き取り

 死体から取り出した脳を、性病や肺病の薬として売却した。

 

また、遺棄された死体のうちには子どものものも多かったため、火葬に付すべき遺体を埋めただけではなく、不義の子を親から預かり埋めたのではないかという疑惑も最初あった。

 

いくつかの新聞記事では、それに関連して「西郷山事件」という事件の名が挙げられている。

 調べたところ、『明治・大正・昭和・平成 事件・犯罪大事典』に「川俣初太郎大量もらい子殺し事件」として載っているものが「西郷山事件」のようだ。

桐生火葬場事件と同年の1933年3月に発覚した事件で、犯人川俣は新聞広告を見ては子を貰いに行き、養育料と子どもをもらったのち子どもは殺害して西郷山に埋めていた。

 

桐生火葬場事件では、発掘された子どもの遺体を解剖したところ他殺ではなく病気で亡くなったものばかりだったため、もらい子殺しの疑惑はなくなった。

 

脳の抜き取り

事件当時はエログロブームの時代。そのために、事件中の「死体から脳みそを抜き取った」という点がかなりクローズアップされている感がある。

 

犯行の主目的は脳の抜き取りとされ、新聞の見出しは「脳みそ抜き取り事件」「隠亡がグロ極る犯行」「悪魔の微笑」等々、非常に扇情的だ。

記事の文章も同様で、中には犯人が女性の死体を弄んだかのような記事もある(しかも記事を読んだだけでもありそうにないと思える内容)。

 

こういった取り上げ方を見ていると、脳の抜き取りについて当時の新聞に書かれていることをどこまで信用して良いかわからない。

 

群馬県警察史』には「脳実質については性病に特効があるということ(迷信)で、其の患者(二人)から依頼されたMが〈中略〉脳実質を取り出し、患者はこれを黒焼となし、服用した」とあり、1500体以上の死体が被害に遭ったにもかかわらず脳を買った者は二人となっている。

しかも大量に購入する必要のある転売人ではなく、自分のために買う「患者」である。

二人が継続的に脳を購入していたとしても、そこまで大量になるだろうか。

Mらの主目的は、脳でなく火葬代金の詐取と貴金属の入手だったと見るのが妥当だろう。

 

薬として用いるために死体を損傷するというと、明治に起きた野口男三郎事件を連想する。

1902(明治35)年に少年が殺害され臀部の肉が切り取られていた事件で、犯人と見られた野口男三郎は、義兄のハンセン病に対する薬とするために、少年を殺して尻肉を切りとったのではないかとされた。

 

『人喰いの民俗学』(礫川全次 批評社 1997)によると、明治30年代までは、人の臓器が病気に効くという迷信が根強く残っていたという。

桐生火葬場事件が起きたのは昭和8年なので、野口男三郎の事件からは30年ほど経っている。

しかし、火葬場事件を受けて医学博士高田義一郎が「馬鹿馬鹿しい迷信から覚めよ 人間の脳味噌は何の薬にもならぬ」という文章を1933年4月28日の読売新聞に載せている。

明治の頃ほどには信じられてはいなかったのだろうが、人体に薬効があるという俗信は昭和初期にも残っていたのだろう。

 

Mらが行った犯罪はひどいものだが、脳の抜き取り行為を主座に据えた「グロ事件」としての報道は、事実を反映したものというよりは時代の産物であったと思われる。

 

 

3につづく(次で終わりです。)